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二つ続けてフランソワ・オゾンの映画を見たわけですが、これは「スイミング・プール」とは作風が全然違いますね。「天空の城ラピュタ」と「平成狸合戦ぽんぽこ」くらい違う。あるいは「YAWARA!」と「MONSTER」くらい違う。
あらすじ。雪に閉ざされた館で主人が何者かに刺殺された。容疑者は8人。主人の妻、主人の妻の母、主人の妻の妹、主人の長女、主人の次女、主人の妹、主人のメイド(黒人)、主人のメイド(白人)。一体誰が何のために主人を殺害したのか。8人の口から事件が断片的に語られるにつれて、8人と主人を巡る因縁が徐々に明らかになっていく。8人は、歌い、踊り、泣き、叫ぶ。
なかなか面白かったですよ。「なるほど、これは舞台だったんだな」と思いながら見ました。舞台だったらラストのアレは音だけで十分ですね。わざわざ画を見せるまでもない。分かり切っていることは分かり切っているのです。
昔、こんな文を書きました。「しかし兄は花瓶から逃げ切れなかった。いや、本当に兄が逃げ切れなかったのは花瓶ではなく、仕事とか家族とか友達とか健康とか、そういった細々とした係累の積み重ねであったのかも知れない。誰もが少しずつ兄を追い詰めて、花瓶は慈悲深くとどめを刺した。そういうどうしようもない筋書きのようにも思えた。」ほんとどうしようもねえよ。
名作と名高い「氷の微笑」をやっと見たわけですよ。なお、この映画に関する事前知識としては「どうやらノーパンの女が足を組み替える有名なシーンがあるらしい」くらいのものでした。そういえば「ザ・シンプソンズ」でもウィリーが同じことをやろうとして警官隊に射殺されそうになっていましたね。しかし、ノーパンて。しゃぶしゃぶか。
あらすじ。男が死んだり女が死んだり男が死んだり男が死んだり女が死んだりしましたが、精神に異常をきたしたりしておりません。
なかなか面白かったですよ。本当に最後の十秒間まで目が離せなかった。よくもまあここまで引きつけてくれたもんだ。音楽の使い方も実にお見事で、エレベータのシーンやベッドのシーンは、ホラー映画顔負けですね。
人がバタバタ死んでしまうろくでもない映画だったわけですが、ラストシーンには少し感動してしまいました。いい画じゃないか。
文句のつけようがないくらい、由緒正しいスチームパンクでした。スチームパンクは七文字なので下の句に使えていいですね。世の中はいつも月夜と米の飯それにつけてもスチームパンク(夢中)。春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふスチームパンク(乾かない)。太平の眠りを覚ます蒸気船たった四はいでスチームパンク(蒸気船だけに)。
それはいい。あらすじ。レイ少年のところにロイド博士からスチームボールが送られてきたからさあたいへん。イギリス政府とアメリカ財団との間で戦争が始まり、お嬢さまはサイモンを探して冒険の旅に出掛けました。
絵は素晴らしかったし、演出や小ネタも良かったのだけど、どうもちぐはぐな印象を受けましたね。登場人物の立ち位置が明瞭でないところや、思想の対立の描写が中途半端であるところや、舞台として地味な場所が多かったところが、気になってしまいました。ラピュタに行けば良かったのに。
いまいち魅力的なキャラクタに欠けているところも問題。だって、この映画で一番キャラが立っていたのって、デブチョビ髭のサイモンじゃないですか。お嬢さまなんて飾りですよ。偽物ですよ。影武者ですよ。サイモンが本体なんですよ。サイモンが本物のお嬢さまなんですよ。
武装地下借賊団カリグラシーの女親分アイパッチ・アリエッティが愉快な仲間たち(カラス、ダンゴムシ、オオナメクジ、クルマエビ、利尻昆布、25種一組の雲形定規、メルセデスベンツSLK350、基本的人権、標準理論、クエンティン・タランティーノ、おでん)を引き連れて、美術館に忍び込みおしゃれ借用をしていく痛快コメディ映画でした。決め科白は「お前はもう貸している」。ラストシーンは「うっそー!? 角砂糖だと思って借りてきたのに、お砂糖じゃなくて俺の塩だったなんて、そんなのアリエッティ!?」。ごめんもうやめるわ。
ごめんやっぱりもうちょっとだけ。アリエッティの名科白は「返す……! 返すが…今回まだその時と場所の指定まではしていない。そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい。つまり…我々がその気になれば借用物の返却は10年後20年後ということも可能だろう……ということ…!」。
感想。じっくり丁寧に作られた、とても良い映画でした。絵の美しさについては言うまでもなく、それ以上に音の使い方がとても素晴らしかった。これはいいね。ストーリーなんかどうでも良くなってくるよ。一瞬一瞬に答えがある。それで十分じゃないか。お別れのシーンは実に良かった。泣けるね。
誰かが言っていたのだけど、Win-Win の関係というか、「アリエッティたちの借りぐらしのおかげで、屋敷の人々が何らかの形で恩恵を受けている」という描写があれば、さらに印象が良くなったのかもね。アリエッティたちが住んでいることによって、シロアリが棲み着かないとか、湿気が溜まらないとか。
と思ったら施川ユウキがコラムを書いていた。そうか、借りを返さないのは意図的なものだったか。一歩先を行かれてしまったよ。まいったね。
さて、ポニョも見ないとな。崖と宗介が出てくることは知っています。
「第一回ガキの使いやあらへんでチキチキ! この一歩に命を賭けろ! 目指せ賞金一千万円! ブレイブ・メン・ロード!」
「松本さん、これはどういうことなんですか」
「ええ。まあいろいろ考えたんですけどね。結局のところ、この我々五人が最も得意とするギャンブルはいったい何なのか、悩み抜いて辿り着いた答えは一つ、鉄骨渡りですよね」
「ぜんぜん得意ちゃうやん」
「まあこれまでも我々いろいろやりましたけど」
「そうですねえ」
「えーと、最初が限定ジャンケン、次が缶ビールと焼き鳥、あと E カード」
「山崎さんは前回」
「ああ、そういや山ちゃんは」
「そうですよ。僕、耳に大怪我をしまして」
「あれは本当にスベりました」
「ちょっと!」
「視聴率も下がったんじゃないですか?」
「なんでも、あまりに視聴者の皆さんがテレビ消したんで、日本中がちょっと節電になったらしいですよ」
「エコやん」
「エコ芸人やん」
「きっと東電から何かもらってるんですよ」
というわけで、カイジダイジェスト版でした。あまりに駆け足だったので年表が出てくるんじゃないかとひやひやしたよ。ぐにゃあはなかったにせよ、ざわざわがちゃんと表現されていたので大満足です。利根川の焼き土下座がなかったのが残念だけど、あれをやると会長戦が必要になるからね。
映画としては完全に破綻していました(班長なんだったん?)が、そもそも映画を目指した映画ではあるまい。この映画の目的は、布教でしょう。
西にいる。
2011年について。
とても良い一年であり、痛ましい一年でもありました。今でも津波の映像を思い出すだけで情緒不安定になります。たくさんの人々が死んでしまいました。地元でも自殺があったそうです。
落ち込んでしまうことも疲れてしまうことも悲しくなってしまうこともありますが、それでも自分はいまとても幸せに暮らしていて、ときどき、「ずっとこのままこんな風に生きていけたらいいのになあ」などと寝言を吐いてしまいます。それでも、いま自分がいるのは、残念ながら、つかの間のボーナスステージに過ぎません。雲の上のコインを取り終えたら、ハンマーブロスの待っている地上に戻らないといけないのです。
それでも、こんなすてきな時間があったのです。僕たちは遠いところからやってきて、この世界に八十泊八十一年くらい滞在して、そしてまた遠いところに帰ります。そんな短い旅行の間に、あんな悲しい出来事の後ではありますが、こんなすてきな時間があったのです。それは、なんて素晴らしいことなのでしょう。
きっとこの遠い旅行から帰ってきても、ソファに座ってウイスキーを飲みながら、写真を眺めて今年のことを思い出すことでしょう。そのときには、ピンキーにも写真を見せたいと思います。
それぞれベストスリーを淡々と発表するよ。
小説。
1 都筑道夫「怪奇小説という題名の怪奇小説」
2 筒井康隆「傾いた世界 自選ドタバタ傑作集 2 」
3 岩井志麻子「ぼっけえ、きょうてえ」
漫画。
1 福満しげゆき「僕の小規模な生活」
2 荒木飛呂彦「スティール・ボール・ラン」
3 施川ユウキ / 秋★枝「ハナコ@ラバトリー」
映画。
1 「アイガー北壁」 "Nordwand"
2 「地獄の黙示録 特別完全版」 "Apocalypse Now Redux"
3 「ロング・エンゲージメント」 "Un long dimanche de fiancailles"
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