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- 06/06/01 -

 ジューンフールか

「六月一日っていいですよね。だってエイプリルフールの子供みたいなもんじゃないですか」
「そんなこと言われたら、ないがしろにされた五月一日の正体が気になってくるじゃないか」

- 06/06/02 -

 ネクタイをかなぐり捨てろ

「私、落ち込むと、すぐ嫌なこと考えちゃうんです。
 たとえば、あれ、新入社員が、初出勤の朝で、ちょっと気分が高揚してるんですね。それで、そうだ、折角社会人になったんだから、ネクタイくらい凝った結び方をしよう、なんて思っちゃうわけなんですよ。大学時代はプレーンノット一筋だったんです。一途なんですね。大学時代はプレーンノット一筋だったんです。一途なんですよ。でもまあ、もう社会人になったんだから、プレーンノットなんか大学と一緒に卒業だ、みたいな。それで、ハーフウィンザーノットなんかやっちゃうわけなんですね。結び方をネットで調べて。ディスプレイに背中を向けたりして。二十分くらいかかって。それで、まあなんとか無事に結べました、と。もうかなり満足気ですよ。わざとらしくネクタイの結び目にさわったりしてるわけですよ。御機嫌さんレベル 4 ですよ。家を出て、電車に乗って、会社に向かう、その間もことあるごとにネクタイの結び目にさわってるわけですよ。それで、まだ出社時刻に余裕があるからコンビニで飲み物でも買っていくか、と。朝のコンビニは混んでて、レジの前に列が出来てるんです。それに並んでいる間も、やっぱりネクタイの結び目にさわってるわけですよ。そしたらですね、菓子パンと大福を持った眼鏡の小学生と目が合って、それで、その小学生が、無表情に、ぽつりと──

『ふうん、ハーフウィンザーノットなんだ。背伸びしちゃって』

 ──って言ってきたら凄い腹立ちますよね!」

- 06/06/03 -

 ボンボリーニの最期

「あかりをつけましょう、ボンボリーニ」
「いけません、お嬢様。奴らはまだ近くに隠れているかも知れません」
「ああ、花を、桃の花をあげなければならないのです。あのひとのために。私のせいで死んでしまった、あのひとのために」
「…分かりました。わたくしが命に代えても、花を捧げに墓場まで参ります」
 突如として響き渡る巨大な轟音。
「あああああ、このフルートとドラムは──」
「──奴ですね! ゴーニン・ブラッジ!」
 そしてドアを蹴破る音。光の洪水。目が開けられない。
「その通りだ、ボンボリーニ!」
「ゴーニン、貴様!」
「カーッカッカッカッ! 今日は楽しいヴィルナ・マ・トゥーリさ!」
 注:ヴィルナ・マ・トゥーリとは、古代イタリア語で「破壊と殺戮! 笑っていいとも! 秋の祭典スペシャル!」のこと。

- 06/06/04 -

 キリンの立ち眩み

「ボス、どうか、どうか許して下さい」
「なあお前、キリンの立ち眩みって知ってるか?」
「は?」
「キリンって首なげえじゃん。だから、首を下に向けてるときに外敵を察知して、頭を一気に上まで持ち上げると、途中で血圧が足りなくなるんだよ。脳細胞に血液が行き渡らなくなるわけ。まあいわゆる立ち眩みだわな。立ち眩みってのは、まあ人間の身長くらいだったら貧血程度で済むだろうけどよ、キリンだぜ、キリン。あんなにでかいんだぜ。キリンの奴、物凄い立ち眩みで、そう、死んじまうんだよ。頭を下から上まで急いで持ち上げただけで、死んじまうわけ。いやあ、すげえよな。すげえ。アフリカの動物はスケールがちげえよ。ほんとすげえよ。ああ、いやまあ、全部作り話なんだけどな」
「え?」
「まあいいや。とにかくお前もキリンみたいに立ち眩みで死ね」

- 06/06/05 -

 もう何も分からない

「俺にはもう何も分からねえ。『きたる』の過去形が『きたった』でいいのかどうかも分からねえ」

- 06/06/06 -

 ジョン太夫バトン

「私のバトンに答えた方がいいですよ、すごいですから」
「ああそう……。え? 何やんの、具体的に」
「そうですね…。ごちそうを食べたり私がプレゼントをもらったりいろいろありますが、基本的には私の成長をみんなで祝福し喜び合うバトンです!」
「バトンごと死ね!」

- 06/06/07 -

 雨の日の地下道 1/5

 これは雨の日のことで、これは地下道のことで、これは実際に僕の身に起きた出来事だ。

 その夜、珍しく僕は湿った薄暗い地下道を歩いていた。大通りの向かい側に渡るためだ。壁は汚れていて落書きが多く、電灯は切れ掛かっているものが目立つ。あまり広くない歩道の両側を濁った水が流れていて、足元には剥がれ落ちた劇団のポスターが転がっていた。頭上からは車が通り過ぎる低い音が途切れることなく続いている。天井の隅では白っぽい蛾が蜘蛛の巣に引っ掛かって暴れていた。
 あまり気持ちのいい場所ではなかったけど、あいにく僕は傘を持ち合わせていなかったので、ちょっとした雨宿りの意味も兼ねて、地下道をのんびり歩いていた。別に急ぐわけでもない。ゆっくり帰れば良かった。多分、雨はそのうち止むだろう。地下道を歩くなり本屋に寄るなり喫茶店で休むなりして、適当に時間を潰せば無事に帰れる。そうしたらテレビを見てシャワーを浴びてビールを飲んで寝よう。ああそうだ、メールを書かないといけないんだった。そんな風に考えていた。
 そのときだ。後ろの方から足音が聞こえてきた。カッカッカッ。階段を降りてくる、足早な高い音。ヒールのある靴の音だ。僕は気にせずに歩き続けた。足音はどんどん降りて近付いてくる。カッカッカッ。急いでいるのか、やや性急な歩調だ。こんな雨の日なのに、危ないな。足音はもう少しで階段を終えようとしていた。カッカッカッ。そのとき突然、ガチャン、という大きな音が地下道に響いた。ああ、やっぱり、滑って転んだか。僕は振り返った。頭上から流れる低い音は途切れることなく続いていた。表情は殺しておいた。
 そこには誰もいなかった。

- 06/06/08 -

 雨の日の地下道 2/5

 僕は動けなくなった。手足が動いてくれなかった。僕は石塔になってしまった。見てはいけないものを見てしまったんだよ、と内耳蝸牛が囁いた。いや、それは少し違う。僕は何も見ていない。見ていないのだけど見てしまった。見ていないのだから見てしまった。どう言えばいいのだろう。よく分からない。とにかく僕は、聞こえないはずの音を聞いて、見えるはずの何かが見えなかったのだ。
 口の中で舌が動かせることを確認した。ゆっくり目を閉じて、ゆっくり深呼吸した。僕は少し震えていた。頭上をトラックか何かが通り過ぎて、床と壁と天井が微かに振動した。僕は何も考えないようにして、再び時間が動き出すのを辛抱強く待った。一分か二分くらい、そうした状態が続いたように思う。指先が動くことを確認してから、僕はゆっくり目を開いた。そこには相変わらず誰もいない地下道があった。そして、その不在はすぐに破壊された。
 視界に何かが入ってきた。女のひとだ。
 女のひとが、足早に階段から降りてきて、そして目の前で滑って転んだ。
 白いスタンドカラーコートを着て、ピンクの傘を握り締めている。茶色いウェーブヘアが胸元まで伸びていて、小さなハンドバッグを小脇に抱えていた。転んだときに足でも打ったのか、痛そうに顔をしかめている。ヒールのある靴を履いていた。女のひとはすぐに立ち上がると、また足早にスタスタと歩き出した。僕のことを不審そうにじろりと睨むと、壁際で横を通って、さっさと出口の階段を駆け登ってしまった。
 直感的に分かった。彼女は幽霊じゃない。オバケでもない。人間だ。確かに、この世に生きる、普通の女性だ。間違いない。僕は溜息を吐いた。よく分からなかった。ただ、できる限り速やかにここを立ち去るべきだということだけは、脳幹に染み込むようにはっきりと理解できた。

- 06/06/09 -

 雨の日の地下道 3/5

 出口に向かうことにした。大きく息を吸い込んで、大きく息を吐き出す。全身の筋肉を意識して、手足を正確に動かす。肝心なのは落ち着くことだ。ゆっくり、ゆっくり、一歩ずつ確実に歩みを進める。小刻みに羽を動かす蛾を通り越して、びしょびしょに濡れた劇団のポスターを踏む。頭上からは低く単調な雑音が聞こえている。
 階段の前に辿り着く。見上げると小さな暗い空が四角い隙間に浮かんでいた。焦るんじゃない。右足を前に出し、左足を前に出す。繰り返しだ。規則的に重心を移動させていく。慎重になれ。機械になれ。外から聞こえる音が大きくなってくる。低い音が高くなる。色のない世界が過ぎ去ろうとしている。
 そして、もう少しで階段が終わる、そのとき、ついに僕は気付いてしまった。気が付かなければ良かったのに。気が付かなければ、こんな目に遭わずに済んだのに。僕は再び震え出した。胃の底から恐怖が這い出してきた。
 どうして、あの女のひとは、ヒールのある靴を履いていたのに。うまく呼吸ができなくなった。変だ。変じゃないか。ヒールのある靴を履いて、この地下道の階段を駆け降りて、滑って転んでしまったというのに、どうして、どうして物音ひとつしなかったんだ?
 僕は眩暈がした。倒れてしまわないように手すりにしがみついた。手すりは金属で出来ていて、僕の腕はちりりと冷えた。それだけならまだ良かった。それから僕は、もっとひどいことに気付いてしまった。あまりのひどさに僕は吐き気がした。そんな強烈な吐き気を感じたのは実に数年振りのことだった。僕は唾を飲み込んだ。黒く澱んだものが食道を滑り降りていった。
 あの女のひとが階段を駆け登っていったとき、どうして、どうして物音ひとつしなかったんだ?
 悪魔が僕の肩を叩いた。

 下の方から聞こえてきた。カッカッカッ。足音だ。

- 06/06/10 -

 雨の日の地下道 4/5

 とっさに下を覗き込む。誰もいない。カッカッカッ。誰もいないのに足音が聞こえる。誰かが階段を駆け登っている。カッカッカッ。近付いてくる。迫ってくる。カッカッカッ。走り出そうにも足が震えて動かなかった。身体が手すりから滑り落ちて尻餅をついた。カッカッカッ。目を閉じて耳を塞いだ。それでも足音はするりと頭蓋の中に忍び込んできた。カッカッカッ。わけの分からぬことを喚いた。涎が滴り落ちた。あ。三歩。カッ。ああ。二歩。カッ。あああ。一歩。カッ。ああああ。
 グシャッ、という轟音がありとあらゆる位置から鳴り響いた。

 跫音が僕を通過していった。僕は踏み潰されて砂になった。砂漠を強い風が吹き抜けていった。そうして粒は世界中に飛び散っていった。僕はもう二度と自分自身に会えないという絶望を知った。

 意識を取り戻すまでどれくらいの時間がかかったのか、はっきりとしたことは何も言えない。気が付いたときには僕はやはり地下道の階段にいた。地上には夜の灯りと車の音が充満しているのが分かった。手足に力が入るようになるまで、たっぷり十五分はかかったと思う。喉が渇き切っていた。小指の先まで神経が擦り切れていた。心の底から暖かい布団の中で眠りたかった。
 僕は這うようにして階段を登った。一段一段がロッククライマーを苦しめる鋼鉄の崖を思わせた。自分の内側と外側から呪いの言葉が聞こえてきた。僕は無念無想で動き続けた。階段が終わったときには涙が出てきた。雨は止んでいた。僕は地面に腰を下ろして、ゆっくり深呼吸をした。終わった。これで終わったんだ。そう思った。そして、それが間違いであることに気が付いた。

- 06/06/11 -

 雨の日の地下道 5/5

 その間違いに気が付いたのは、その翌日の夜のことだ。僕は地下鉄の座席に座っていた。その日は朝から晩までずっと忙しく、あちこち駆け回らせられていて、僕はやっと家に帰って休めるという安堵に包まれていた。今日こそテレビを見てシャワーを浴びてビールを飲んで寝よう。嫌なことを何もかも忘れて、自分だけの大切な時間を過ごそう。そんな風に考えていた。
 昨日は結局、夜が明けるまで歩道に座り込んでいた。まともに立ち上がれるようになるのを待ってから、タクシーを捕まえて一旦部屋に引き返し、二時間ほど玄関で寝てからまた外に飛び出した。お陰で全身が疲労していた。精神が摩耗していた。それでも自分は自分のすべきことをしなければならない。どんな奇妙な出来事だって仕事の言い訳にはならない。結局のところ、生きるというのは、そういうことなのだ。
 僕は目を閉じて指を組み合わせ、下を向いて、もう半分くらい眠っていた。電車が心地良く揺れている。サラリーマンの集団が冗談を言い合っている。空き缶が転がっていく音が聞こえる。電車がスピードを落とす。聞き慣れた車内アナウンスが流れる。電車が止まって、駅名が呼び上げられる。お疲れ様です。サラリーマン達がお互いに挨拶する。誰かが駆け込み乗車をする。扉が閉まる。大きく息を吐く。僕の隣に座る。あ、済みません。僕は薄目を開けてそちらを見た。
 そこには誰もいなかった。

 あああああ。

 電車はスピードを落として止まろうとしていた。サラリーマン達が笑っているのが見えた。悪魔は実に愉快そうに僕の耳を齧っていた。

- 06/06/12 -

 質疑応答 DNA 鑑定

「 DNA 鑑定って何でもできるんですか?」
「はいはい、できますできます」
「この子が誰の子供なのか突き止めることも?」
「はいはい、できますできます」
「うちのミイちゃんの居場所を探し当てることも?」
「はいはい、できますできます」
「東海大地震を事前に食い止めることも?」
「はいはい、できますできます」
「ハイチのストリートチルドレンを救うことも?」
「はいはい、できますできます」
「次の総選挙で国会議員に当選することも?」
「はいはい、できますできます」
「ドリームジャンボ宝くじで三億円当てることも?」
「はいはい、できますできます」
「うちの和式トイレをウォシュレットにすることも?」
「はいはい、できますできます」
「延滞料を払わずにレンタルビデオを返却することも?」
「はいはい、できますできます」
「パン屋に入って何も買わずに出てくることも?」
「はいはい、できますできます」
「給食に出てきた嫌いなトマトを残すことも?」
「はいはい、できますできます」
「失われた青春を取り戻すことも?」
「はいはい、できますできます」
「消えてしまった冒険の書を甦らせることも?」
「はいはい、できますできます」
「ロストしたレベル 35 の忍者を生き返らせることも?」
「はいはい、できますできます」
「世界の中心で愛を叫ぶことも?」
「はいはい、できますできます」
「ブスの瞳に恋することも?」
「はいはい、できますできます」
「レオナルド・ダ・ヴィンチが残した暗号を解き明かすことも?」
「はいはい、できますできます」
「心配するのを止めて水爆を愛するようになることも?」
「はいはい、できますできます」
「キューブから無事に脱出することも?」
「はいはい、できますできます」
「テレビの画面から貞子を出すことも?」
「はいはい、できますできます」
「コックリさんを呼び出すことも?」
「はいはい、できますできます」
「ぬらりひょんに会うことも?」
「はいはい、できますできます」
「一反木綿に乗ることも?」
「はいはい、できますできます」
「 DNA 鑑定すげえ!」
「そこなんだ」

- 06/06/13 -

 バイバイ、サラダ

 時々神様が TPO を弁えない発言をしてくるので大変困ります。

「詩人になるか、さもなければ、何にもなりたくない」
と君が言ったから七月六日はニート記念日

 ヘルマン・ヘッセに怒られますよ。

「エンディングまで泣くんじゃない」
と君が言ったから七月六日はギーグ記念日

 糸井重里に怒られますよ。

「嘘だったら鼻でスパゲッティ食べてみせる!」
と君が言ったから七月六日はのび太記念日

 フニャコフニャオ先生に怒られますよ。

- 06/06/14 -

 人形三姉妹問題編

 それにしてもコッペリアとロッテリアはあまりにも似過ぎている。姉妹だと考えて間違いないだろう。末っ子はゾッゲリアだ。だれかれ構わず緑色の粘液を撒き散らしてくるから気を付けろ。ゴスロリ首輪チョーカーが弱点なので近付いてから落ち着いてショットを連射すればいい。スカートのひらひらレースが利休鼠色になったらもう少しだ。最後には切腹して盲腸爆弾で自爆してくるからきちんと画面端に退避するように。
 さて、ここで問題。三姉妹の父と母の名前は何だろうか?

- 06/06/15 -

 人形三姉妹解決編

 次のような解答が寄せられたので紹介したい。

父の名前 : オーストラリア
母の名前 : オーストリア

 素晴らしい。文句のつけようもない。模範的な愚答である。
 さて、賢明なる読者諸君にとって、この問題はいささか簡単過ぎただろうか。解答例を以下に示す。

父の名前 : ノッペリア
母の名前 : コッテリア
犬の名前 : エリア 88

「ハハア、やっぱりな。というか、ヤッパリア」と思われた方は please@hate.me.more に報告されることが望ましい。

- 06/06/16 -

 クイズ「正解はビンタ」

 クイズ「正解はビンタ」のお時間です。では早速、第一問。

 もう出掛ける時間だってのに、蚊取り線香が消えてくれなかったんですよ。息を吹き掛けても消えないんです。燃えてるところが赤くなるだけなんですよ。馬鹿にしてますよね。口を近付けてフーフーやってたもんだから、煙を吸っちゃって、もうゴホゴホ咳き込みましたよ。それでもう頭に来たから、思わず ( ) したら、びっくりしたもんで、火が消えたんですよ。

 文中の ( ) に当てはまるものは何でしょう。次の中から選んで下さい。制限時間は二年です。

A : 右手でビンタ
B : 左手でビンタ
C : 消火器でビンタ
D : 水を張ったバケツでビンタ
E : 油を張ったフライパンでビンタ
F : バールのようなものでビンタ
G : 砒素でビンタ
H : そもそもビンタって何でしたっけ?
I : 暗殺?

 答えは「 3 : 八時間ほど天袋に放置」でした。では皆さんまた来週。御機嫌よう。

- 06/06/17 -

 歯磨き粉がないなら絵具を使えばいいじゃない

 某所にて、
「あ、私もその映画を見に行こうと思ってるんですよ。面白かったですか?」
「面白かったですよ。まるで一本の映画を見ているようでした」
 という、なんというかアレな問答を見掛けて思った。
 私達はもっと「まるで一本の映画を見ているようでした」について、日頃から深く考えておく必要があるのではないだろうか。
 たとえば、ある女性が寝る前に日記をつけていたとしよう。つまらない、平凡な、ごく普通の一日の記録である。

 朝の八時に起きて慌てる。時間がないので非常食のカロリーメイトを持って、駅に向かうバスの中で食べる。銀座線はいつものように混んでいて辟易する。九時には会社に着く。仕事をする。コピーの長辺閉じと短辺閉じを間違える。お昼休みはよしちゃんとポポラマーマへ。カルボナーラを食べた。午後は得意先へ。相変わらずあそこの部長は腹が立つ。セクハラもいいところだ。会社を辞めたら起訴することにしよう。夕方には社に戻る。頭の悪い男達が早々に帰っていく。腹が立ったので最後まで残ることに決める。こんな日に限って課長がパソコンに向かってネトゲをしている。なんとか十一時には帰ることができた。シャワーを浴びて、テレビを眺める。コンビニのお弁当を食べて、ビールを飲む。ちえちゃんとメールする。ちえちゃんはよく語尾に数学記号を付ける。日記を書く。二時前。

 面白くともなんともない。しかし、ここにある一文を付け加えるだけで、このモノトーンの水墨画のような日記がたちまち美しい色彩を帯びる。その魔法のような言葉を、君はもう知っているはずだ。

 朝の八時に起きて慌てる。時間がないので非常食のカロリーメイトを持って、駅に向かうバスの中で食べる。銀座線はいつものように混んでいて辟易する。九時には会社に着く。仕事をする。コピーの長辺閉じと短辺閉じを間違える。お昼休みはよしちゃんとポポラマーマへ。カルボナーラを食べた。午後は得意先へ。相変わらずあそこの部長は腹が立つ。セクハラもいいところだ。会社を辞めたら起訴することにしよう。夕方には社に戻る。頭の悪い男達が早々に帰っていく。腹が立ったので最後まで残ることに決める。こんな日に限って課長がパソコンに向かってネトゲをしている。なんとか十一時には帰ることができた。シャワーを浴びて、テレビを眺める。コンビニのお弁当を食べて、ビールを飲む。ちえちゃんとメールする。ちえちゃんはよく語尾に数学記号を付ける。日記を書く。二時前。
 ──まるで一本の映画を見ているようでした。

 おお、なんというドラマチックな一日。これなら万が一急な事故で死んでしまったとしても、よしちゃんは日記を読んで涙をこらえながら「かなちゃん、とっても素敵な人生だったんだね」と言ってくれることだろう。素晴らしい。ブラボー。拍手喝采。我が生涯に一片の悔いなし。
 もちろん、「まるで一本の映画を見ているようでした」が適用できる場面は、これだけではない。

 娘が死んだという報せが入る。妻は泣いていた。私は泣くわけにはいかない。担ぎ込まれてきた患者を診て、看護婦に指示を出す。酔っ払って喧嘩していたらガラス戸に突っ込んでしまったのだという。医者はいいよな、俺達みたいな貧乏人の苦労を知らなくていいんだから、と怒鳴る。無視していたら唾を飛ばされた。どうせそこの看護婦にも手ぇ出してんだろ、分かってんだぞ、おいちょっと待て逃げんな医者。朝の六時に病院を抜ける。朝の電車では徹夜で遊んだ学生達が騒いでいる。靴を履いたまま座席に横になっている男がいる。つかまった手すりがぬめぬめしている。
 ──まるで一本の映画を見ているようでした。

 ああ、あなたの背中に天使の翼が見えます。あなたの魂は極彩色に輝いています。

 午後六時に労働が終わる。独房に戻って、味のしない飯を食べる。退屈なので本を眺めるが、五分と持たない。窓の外の星を見ていると、色々なことを思い出してしまいそうになるので、下唇を噛んで必死に耐える。どこにも逃げることはできない。支給品の絵具を飲み込めば楽になれるだろうか。九時に消灯。すぐに寝る。明日も地獄が待っている。
 ──まるで一本の映画を見ているようでした。

 寝る前は歯くらい磨きましょうよ。

 私はたぶん、今目覚めた。此処は、何処だらう。私は何をしてゐるのだらう。私は生暖かい液体に浸つてゐる。私は目を閉ぢてゐるのだらうか。目を開けてゐるのだらうか。暗い。そして静かだ。私は体を丸くして、液体に浸つてゐる。声が聞こえる。何を怒つてゐるのだらう。いや、悲しんでゐるのだらうか。私の気持ちは、とても安らかである。私は親指を握り締めてゐる。私の臓は外に開いてゐる。私の臓は何処に繋がつてゐるのか、どうも少し寒いやうだ。私は目覚めてゐるのだらうか。「母様」
 ──まるで一本の映画を見ているやうでした。

 ごめん、もう飽きた。やっぱこれつまんないわ。何が映画だ。何が「やう」だ。何が京極夏彦だ。

- 06/06/18 -

 一ザラキ二サイクロプス

「どれだけ考えたって同じだよ。『一石二鳥』を許すことはできない。あの諺は明らかに鳥のことを舐め過ぎている」

- 06/06/19 -

 Proportional Integral Derivative Control

「精神が安定しないなら PID 制御をかければいいじゃない」

- 06/06/20 -

 「パンがないなら貴様がお菓子じゃあ!」

 まあ、ほんとは諸説様々らしいんですけど、一応世間的には、マリー・アントワネットが「パンがないならお菓子を食べればいいじゃない」って、空気の読めていないことを言ったから、フランス革命が起きたって言われてますよね。
 あの、この「パンがないならお菓子を食べればいいじゃない」って、もう明らかに突っ込み待ちじゃないですか。お客さんを笑わせる気、満々じゃないですか。ちょっと面白過ぎますよ。実際、この文句は格好のテンプレートあるいはお題として、もうかなり大昔から人々に愛され続けているんですね。多分、鎌倉時代くらいから。いや、だからそれくらい由緒正しいお題だってことですよ。その長い歴史の中で、ある偉人は「パンがないならフランスパンを食べればいいじゃない」と言ったという。またある偉人は「パンがないなら土下座して私に謝ればいいじゃない」と言ったという。そしてある偉人は「パンがないなら手品は大成功!」と言ったという。もうアホばっかしです。偉人なんてアホばっかしです。
 それでですね、まあ自分も人類の端くれですから、なんちゃって霊長類ですから、一応、このお題に答えてみたんですね。

「パンがないならブレッドを食べればいいじゃない」

 もう絶対に「英語かよ!」って突っ込まれる。石を投げられる。フランスパンで後ろから殴られる。
 多分、フランス革命が起きたのもそんな理由だと思う。

「パンがないならお菓子を食べればいいじゃない」

 もう絶対に「そのまんまかよ!」って突っ込まれる。ああ、そりゃフランス革命、起きるわ。しゃあないしゃあない。

- 06/06/21 -

 いつもポケットにつげ義春

「見切り品で五十円だったゴーヤを買ったんだけど、ほっといたらすぐに悪くなっちゃったよ」
「なるほど、きみの言わんとする意味がだいたい見当がつきました。きみはこう言いたいのでしょう。ゴーヤだけに甘くなかった!」

- 06/06/22 -

 「もう僕いい」メソッド Case.A

 漫画家の久米田康治が「さよなら絶望先生」の第四巻にて提示していた「もう僕の話はいいじゃないですか」メソッドがあまりにも素晴らしかったのでここにその応用例を紹介したい。 

 ああ……まあ……そうですね……。いや……僕は……その……あの……いわゆる……猫ですか……猫なんですけどね……。ただ……いえ……その……ねえ……僕の場合……まあ……なんていいますか……名前ですか……名前は……まだ……まだ……ないんです……ね……もう僕の話はいいじゃないですか!

 続く。

- 06/06/23 -

 「もう僕いい」メソッド Case.B

 続き。

 だから……猫が……野良だと……思うんですけど……猫がですね……。まあ……うちの……魚ですか……魚を焼いてたんです……あの……夕方だったんで……ご飯……作ってたんで……。それで……焼いた魚……猫が……うちに……入ってきまして……魚……くわえ……くわえたんです……。どうして……僕ばっかり……。いえ……それで……あの……追い掛けた……追い掛けたんですね……猫……。そしたら……あの……靴……靴が……見当たらなくて……。それで……仕方なく……仕方なかったんです……ごめんなさい……。僕……あの……はだ……はだ……はだしで……もう僕の話はいいじゃないですか!

 続く。

- 06/06/24 -

 「もう僕いい」メソッド Case.C

 続き。

 あの……もう……割と……昔の話……らしいんですけど……。海辺に……ええ……漁師ですか……そう……漁師が……いたんですね……。あの……漁師ですから……海辺に……いたんです……。魚……捕まえないと……困るから……生活……できなくなるから……その……海辺に……いたんだと……思います……。詳しいことは……ちょっと……ごめんなさい……分からない……です……済みません……。それで……その……漁師が……歩いてた……わけですね……。散歩……ですかね……ジョギング……じゃなかった……と思います……。そしたら……なんか……子供……そうですね……子供達が……いたんです……。多分……まだ……小さかったんだと……思うんですけど……。やっぱり……詳しいことは……済みません……ほんとに……済みません……分からない……です……ごめんなさい……。それで……子供達が……あの……もう……言いたく……ないんですが……。駄目ですか……でも……ああ……そうですか……はい……分かりました……。子供達が……あの……集まって……その……ああ……か……亀……亀を……もう僕の話はいいじゃないですか!

 続く。

- 06/06/25 -

 「もう僕いい」メソッド Case.D

 続き。

 いや……だから……そう……亀が……ですね……その……亀が……勝った……わけ……ですよ……。ああ……済みません……話が……ちょっと……分かりにくかった……ですかね……。ええ……だから……その……兎は……寝てた……いや……眠ってたんです……草むらで……ずっと……。それで……亀が……その……勝った……というか……先に着いた……わけ……ですね……。おかしい……ですよね……普通なら……その……そういうときは……勝負なし……じゃない……ですか……。いや……だって……寝てた相手に……勝ったって……意味ない……ちっとも……意味ない……じゃない……ですか……。全然……真剣……勝負……じゃない……再試合……すべき……だと……思う……いや……思います……。本当に……自分の方が……速いって……兎よりも……速いんだって……思ってるなら……再試合……すればいい……。でも……亀は……その……多分……それを……認め……ああ……認めなかった……のかな……。亀……ひどい……そう……ひどい……ですよ……最悪……ですよ……ね……ほんと……ひどい……です……。別に……寝たって……いいじゃない……ですか……。兎が……寝たくなる……理由も……あった……あったんですよ……きっと……。大変……だった……もう……大変……妹が……病気……昨日も……忙しくて……徹夜……ずっと……看病……それで……眠くて……もう僕の話はいいじゃないですか!

 続く。

- 06/06/26 -

 「もう僕いい」メソッド Case.E

 続き。

 だからですね最新作を投稿されたわけですよクリスチーネ剛田先生が。無茶苦茶面白いんですよホラーとサスペンスとアクションとファンタジーと恋愛ものと時代ものと哲学ものと宗教ものとシュールレアリズムとスラップスティックとスーパーマリオブラザーズとマイケルジャクソンのいいとこ取りをした完璧な作品でしてね。そうしたらすぐに出版社から連絡がありましてお願いですからもう二度と原稿を送ってこないで下さい紙とインクとルイージとリトルマイケルが不憫で不憫で仕方ないんですって言うじゃないですか信じられませんよ。あのクリスチーネ剛田先生の作品ですよどう考えたって合格間違いなしじゃないですか即採用即連載じゃないですか明日から学校帰りに仕事場通いじゃないですか。僕はどうしても奴らが許せなくてですね泣いて止めるクリスチーネ剛田先生を振り払って鉄ボタンのついた金棒を持って出版社に押し掛けたんですよ。そしてそこの原価計算第二課のオフィスに行きまして一の瀬と二谷と三田と四家と五島と六本木と七尾と八橋と九条と課長を叩きのめしたんですもう僕の話はいいじゃないですか!

 続く。

- 06/06/27 -

 「もう僕いい」メソッド Case.F

 続き。

 もう……僕の話は……いい……うん……いいじゃない……ですか……。だって……僕が……何を……言ったって……無駄……死んだ……人達が……帰ってくる……わけ……じゃない……ですし……。もう……何もかも……終わった……そう……終わって……しまった……こと……じゃない……ですか……。そう……どうしようも……ない……もう……何もかも……すべて……無駄……ええ……無駄……ですよ……。仕方ない……そう……仕方なかった……はい……あれは……どうしようも……なかったんです……。あれは……避けられない……ええ……起こる……べくして……起きた……避けることの……できない……そういう……種類の……事件……だった……。誰が……何を……言ったって……過去は……もう……過去は……変えられない……そう……決して……変えられない……。だから……もう……僕の話は……いいじゃない……ですか……。そもそも……今……取り調べを……受けて……ええ……受けて……いるのは……僕……じゃなくて……あなた……の……方……なんだから……もう僕の話はいいじゃないですか!

 続かない。

- 06/06/28 -

 さようなら、カントール集合

 スタージョンの法則という有名な言葉がある。

「 SF の 90% はクズである──ただし、あらゆるものの 90% はクズである」

 言うまでもないが、この法則は今か今かと突っ込みを待ち構えている。

「あのう、残りの 10% は『あらゆるもの』に含まれないんですか?」
「お前はクズだ」

 獲物を待つ虎の口に飛び込むのは、勇者ではなく愚者のすることである。

「あ、残りの 10% はクズではない、しかしクズも非クズも『あらゆるもの』に含まれる、だとするとフラクタルみたいで面白いですよね!」
「お前はクズだ」

 虎の口に入り込んでしまった者に、クズになる以外の末路はない。

- 06/06/29 -

 千利休もびっくり

「発見しました! スイカに砂糖をまぶすと甘くなります!」

- 06/06/30 -

 名探偵の大推理

「皆さん、ついに分かりました。犯人は──そう──被害者を殺害した人物です!」

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