counter
-7MainanaDiaryVaseAboutMailAntenna

<< 2006年03月 | Main | 2006年05月 >>

- 06/04/10 -

[ ShortEssay ] 爪切りを探した

 物凄く唐突で申し訳ないんですが「夜に爪を切ると親の死に目に会えなくなる」という非常に鬱陶しい迷信を作り上げた人物あるいは誰かが口から出任せで垂れ流したそれを真に受けてベラベラ自慢げに後輩やペットにしゃべりまくって冗談だと気付いたときにはもう手遅れで奴は既に誰にも止めることのできない暴走機関車のようなあるいは偏西風波動のような無形の怪物として人口に膾炙されていて人々の精神を知らず知らずのうちに蝕んでいたときにほんのちょっぴりの勇気を振り絞ってオキシジェンデストロイヤーでこの呪いを滅ぼそうとした人物のことを考えながら夜に爪を切ってもひとり。

- 06/04/23 -

[ ShortEssay ] 駄作メソッド

 どんなに素晴らしい長編小説でも「っていう話を考えたんだけど、どうかな?」「ダメだろ」と末尾に付け加えるだけであっという間に駄作に作り変えることのできるメソッド略してダソッド。類似のものに「という夢を見た」メソッド略してトソッドや「そんなわけないじゃないですか」メソッド略してソバット、「流石にこのオチには無理があったかな…」メソッド略してサガットなどがあります。タイガーニー。

- 06/04/24 -

 トイレの赤ん坊

 理学部一号館のトイレに入って、便器に向かっていたら、赤ん坊の泣き声が聞こえた。
 後ろを振り向いたら、トイレの個室の中で、赤ん坊がふわふわと浮いていた。明らかに生きている赤ん坊の顔ではなかった。
 俺はそれを見て、溜息を吐いた。
「分かった、分かったよ。お前は死んだ。そんな小さい身体で死んでしまったんだ。悔いも恨みもあるだろう。だけど、だからって、俺にどうしろって言うんだ?」
 赤ん坊は泣くのを止めて、少しだけ考える素振りを見せてから、天国に行った。俺は手を洗ってトイレを出た。

- 06/04/25 -

[ GreenEyedCats ] Dialogue Part I a

「えっと、どこまで話したんだっけ?」
「雪が降ったところまでだね」
「ああ、そうか。そう、冬の終わり頃には、クマを病院まで連れていったんだ。洗濯ネットと旅行鞄に詰め込んでね」
「病院…? あ、もしかして」
「うん、そういうこと」
「そっか。まあ仕方ないよね」
「申し訳ないとは思うけどね。クマは大人しかったよ。病院に行くまでの間は時々鳴いてたけど、着いたらもう暴れずにじっとしてた。脈拍を測るときに看護婦さんが『随分ドキドキしてますね』って言ってたよ。やっぱり怖かったんだろうね。手術が終わった後は『とても大人しい子でした』ってお医者さんから褒められたんだ」
「そっか。…ダメだ、あんまり考えるもんじゃないね」
「…そうそう、帰るときに病院のひとがカラーをくれるのを忘れていてね」
「カラーって?」
「手術の傷口を舐めないように、頭の回りをプラスチックの器具で覆うんだよ」
「ああ、化膿しないように」
「そう。クマの奴、部屋の前まで戻ったら麻酔が切れたのか、急に暴れ出してね。傷口を舐め出して大変だったよ。慌てて病院のひとに電話して来てもらったんだ」
「そりゃあ大変だったね」
「まあなんとか術後の経過も異常なし。相変わらずクマは元気だよ。なべて世はこともなし」
「…ふむ」
「実はこの話にはオチがあってね。病院で作ってもらった書類の写しを見たら、クマの種類のところに思いっきり『犬』って書いてあったんだ」
「ほんと?」
「ほんと」

- 06/04/26 -

[ GreenEyedCats ] Dialogue Part I b

「それから?」
「うん、引っ越しをしたんだ。多分、猫達はもう二度と自分の母親に会えないと思う」
「まあ、やっぱりそうなんだろうね」
「悪いとは思うよ。でも仕方のないことなんだ。誰かと一緒に生きるってのは、その相手に多かれ少なかれ迷惑を掛け続けるってことなんだし、それが嫌なら井戸の中で念仏でも唱えているしかないんだ」
「…そんな極端なものでもないと思うけどね」
「確かに。猫達を運ぶのにはやっぱり洗濯ネットと旅行鞄を使ったよ。引っ越し先に着いたときには、鞄の内側がびっしょりになってた。きっと暑かったんだろうね」
「はは、かわいそうに」
「新しい部屋には小さな庭があって、朝は日差しがすっと入り込んでくるんだ。猫達はよくそこで気持ち良さそうに日向ぼっこをしている。もうすっかり溶け込んでくれたよ。近所の子供が部屋の前を通ると、猫を探しているのが分かるんだ。そういうのって、悪くないもんだよ」
「うん、分かるよ」
「…まあそれでも、色々あったんだけどね」
「ほう。例えば?」
「引っ越しの前に、ヴァイスが怪我をしたんだ。右足。どうしてそうなったのかは分からないけど、とにかく右足に怪我をして、傷口からちょっと血が出ていた。ほっとけばすぐ治るような傷だったんだけど、ほら、猫は舐めるからね。少しずつ時間をかけて、徐々に悪くなっていった。一ヶ月くらい続いたかな。骨のような地肌が見えていたよ。右足を引きずるようにして歩くんだ。もう痛々しくてね。そこで、さっき言ったクマのカラーをつけてもらったんだ。なんとか無事に良くなっていったよ。今はもう完治して、傷口の毛も生え揃ったんだ」
「なるほど。良かった良かった。クマの方は?」
「近所の家で飼っている小鳥を襲おうとして、僕と近所のひとの大目玉を食ったよ」
「あはは」
「やれやれ」

- 06/04/28 -

[ GreenEyedCats ] Dialogue Part I c

「あとは?」
「そうだね。半月前にヴァイスが子供を産んだくらいかな」
「…へえ、そうかそうか」
「うん、ちょっと驚いたよ。でもね、これは結局のところ、当たり前のことなんだ。誰もが確実にできることではないだろうけど、然るべき状況と然るべき手続きさえあれば、然るべき結果は必然的に出てくるんだよ」
「まあそうだろうね」
「カップにお湯を注いで、三分待ったら、そこにはラーメンがあるんだ」
「はは。僕達はみんなカップラーメンかい?」
「そう。僕達はみんなカップラーメンだよ」
「そうなのかも知れないね。父親は誰なのか分かっているのかい?」
「確証はないけど、多分、クマだと思う」
「…なるほど。じゃあやっぱり小猫は黒猫?」
「三匹はね。二匹は雌で、一匹は雄。もう一匹は雌の雉猫だよ」
「へえ。そういえばキジも雉猫だったんだよね?」
「うん。クマとヴァイスの母親も縞模様のある猫だったしね」
「なるほど。じゃあ生まれてきた彼女は、帰ってきたキジだ」
「そういうことになるね。ちょうどどちらもカギ尻尾だし」
「なかなかうまいこと出来ているじゃないか」
「なかなかうまいこと出来ている」
「…まあ、君も猫達も、元気にやっているようで何よりだ」
「まあね」
「今日はこれくらいかな」
「そうだね」
「じゃあ、また手紙をくれよ」
「分かった」

<< 2006年03月 | Main | 2006年05月 >>

MainanaDiaryVaseAboutMailAntenna-7