（この話にオチはありません。）

　スンドゥブに豆腐が入っていなかった。
　デパ地下でスンドゥブセットを買い、部屋に戻ってガスコンロに向かい、雪平鍋に水とスープと具材を入れたところで、豆腐が見当たらないことに気が付いた。
　豆腐は別売りなのか？　とパッケージを裏返したところ、原材料にはしっかりと「豆腐」と記載されていた。
　そもそもスンドゥブとはスンドゥブ・チゲの略称であり、スンドゥブ・チゲとは簡単に言うと豆腐入りキムチ鍋のことである。だからスンドゥブ・チゲをスンドゥブと呼ぶのは、チーズバーガーをチーズと呼ぶようなものであるが、それはともかく、豆腐が入っていないスンドゥブ・チゲというのは、チーズが入っていないチーズバーガーであり、カツの入っていないカツカレーであり、天ぷらの入っていない天ぷらうどんである。天ぷらが別売りの天ぷらうどんなんて聞いたことがない。
　しかたなく冷蔵庫から木綿豆腐を取り出して、鍋に入れて煮込み、夕食としていただいた。とても美味しいチゲであった。
　しかしこれで黙っているわけにはいかない。夕食後、デパートに電話をかけ、できるだけ丁寧に事情を説明したところ、
「たいへん申し訳ございません。今からお届けにお伺いしてよろしいでしょうか？　新しいものと交換させていただきます」
　びっくりしたのは私である。もちろんそれはいっこうに構わない、ただしスンドゥブはもう食べてしまったのだが、それでも良いのか、と尋ねたところ、一分ほど待たされた上で、お伺いさせていただきます、とのことであった。
　電話から一時間後、デパートの方が新しいスンドゥブを持ってきた。彼はお詫びを言い、私はお礼を申し上げた。デパートの対応は素晴らしいものであった。今後もデパ地下を使い続けたいと思う。
　今回の教訓は、あまりに自明なものでも、ちゃんと存在を確認することを怠るな、ということであろう。あなたが今日食べた天ぷらうどん、その天ぷらうどん、本当に天ぷら入っていました？