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- 06/03/24 -

 妖怪チョココロネ

 憑き物が落ちてくれないことがある。
 こないだ、バイトの同僚が YAMAHA 銀座店の袋を持ってたんですね。ああいうお店で買い物をすると、なんか、袋にチラシとか入ってるじゃないですか。こんなリサイタルがありますよ、とか、こんな新商品が出ましたよ、とか。あれ、ちょっと、不快ですよね。いや、違うんですよ。自分、滅多に YAMAHA で楽譜を買わないんですね。お金がないから。お金がないから楽譜は買わないけれど、時々五線紙を買うんです。二百円の。二百円の五線紙。YAMAHA の売り場でも下から二番目くらいの値段だと思う。なんか、ト音記号の絵が入ったちっちゃい消しゴムの次くらいの値段だと思う。あの、楽譜って高いんですよ。だから、もう結構な割合のひとが、五千円札とか一万円札とか出すんですね。そんな中で、一人、小銭入れから、二百円。もしかしたら前の客は「じゃあ次はミサちゃんのためにグランドピアノでも買ってあげようかな」「本当? 嬉しい! おじ様ありがとう!」「ははは、どんなに素敵な楽譜が沢山あっても、良いピアノがなかったら紙屑も同然だからね」みたいな感じかも知れない。そんな中で、一人、小銭入れから、二百円。もう店員さんも「えー、こいつに、袋、要るの? 袋もタダじゃないんだよ?」みたいな感じになってると思う。いや、袋、要らないです。シールでいいです。いや、エコなんです。JRC なんです。ベルマーク委員会なんです。なんだかんだで袋をもらう。チラシを見てみると、なんか、ランチ付きのエレガントタイムコンサートの宣伝をしている。3500円。切ない。とても切ない。ごめんね、悪かったよ。不快だなんて言って悪かったよ。良かったね、ミサちゃん。幸せになってね。あとこれは本当の話なんだけど、ランチ付きのエレガントタイムコンサートの出演者が、假屋崎省吾で、「えー!」って思った。本当に。
 それはいい。それでですね、その同僚が持ってたチラシの中に、中古楽器のリストがあったんですよ。それを見たら、なんか、紙面を節約したかったみたいで、楽器の名前が略称なんですね。TR とか FL とか、そんな感じなんです。ああ、トランペットね、フルートね、みたいに、まあ、見ていたわけじゃないですか。その中にあった、異色の楽器が、CR 。クラリネットじゃないですよ。クラリネットは CL ですからね。何の略称なのか分からない。その場にいた人間全員で考えても分からない。いや、知っている名前に決まってるじゃないですか。楽器の名前ですよ。知らないわけがないのに、分からない。謎だ。なんか「読者への挑戦状」みたいですよね。結局、その日は最後まで分からなかったんです。それからしばらく CR が頭から離れませんでね。もう、背中には明らかに憑き物がいますよ。妖怪ですよ。薔薇十字探偵社ですよ。あ、でも、その日帰って寝たら、もうすっかりそのことは忘れてました。いや、本当のことを言うと、電車に乗った時点で、忘れてた。もしかしたら、バイト先の階段を降りた段階で、忘れてたかも。憑き物、弱い。弱いじゃん。それで、そのことをついさっき思い出したんですね。そういえば CR って何だったんだろう。そういうときはネットで検索するに限ります。ネットは便利ですね。憑き物も落とせる。即席京極堂だ。
 それで結局 CR が何だったのかというと、コルネット。知らない。知らないよ。何ですかそれ。落ちないじゃん。全然、憑き物、落ちない。コルネット。チョココロネに似ているのかも知れない。こうして妖怪チョココロネは生まれた。愛称はミサちゃん。おじ様は騙されないように気を付けろ。

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