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- 05/11/23 -

[ GreenEyedCats ] 秋と猫と冬が来た

 猫達にとって初めての冬がやってきた。
 猫には衣替えがない。夏も冬も同じ毛皮で過ごすしかない。多少濃くなったり薄くなったりはするようだけど、人間の衣類のような劇的な変化をすることはなく、傍目には T シャツとタンクトップの差くらいしかないように思える。あ、いや、そんな薄着ではないから、コットンセーターとウールセーターの差くらいしかない、にしておこう。とにかく、猫には衣替えがない。だから季節の変化がより切実な問題となるだろう。夏も冬も T シャツにセーターを着た自分を想像するとうんざりしてしまう。

 別にしつけをしたわけではないのだけど、クマもヴァイスもテーブルの上に登ることはない。テーブルといっても膝までの高さもないもので、要するにちゃぶ台のことなのだけど、とにかくそこが歩くべき場所ではないことくらい猫達だって分かっているようだ。しかしクマは、はっきりとした目的を持ったときに限り、その上に登ることがある。目的は大体ふたつに分類することができる。ひとつは、テーブルの上に美味しそうな食事があるとき。もうひとつは、椅子の上の膝に登りたいときだ。
 ある朝、何も考えずにベッドに座っていたら、クマが膝の上に登ってきた。それ自体は珍しいことではない。しかし僕が彼を床に下ろして立ち上がると、彼は急に大声で鳴き始めた。椅子に座り、どうしたんだよ、と眺める。するとクマは、テーブルを踏み台にして、僕の膝の上まで登ってきた。そんなことは今まで一度もなかった。椅子の上の膝に登るのは、ヴァイスの仕事であってクマの仕事ではないはずだった。
 そのとき僕は、冬が来たことをはっきりと理解した。それは、夜道で震えたときにも、コートを取り出したときにもなかった、あまりにもはっきりとした理解だった。手を伸ばせばつかめそうなくらいだった。

 ベッドに横になっていたら、ヴァイスが頬を舐めてきた。ヴァイスは指を差し出すと舐める癖があるのだけど、頬を舐められたのは初めてのことだった。彼女なりに何か伝えたいことがあったのかも知れないし、単に気紛れを起こしただけなのかも知れない。どちらでもいい。猫のざらざらした舌で擦られて、僕の頬は少しだけひりひりした。

 冬は厳しい季節だ。多くの人間が確実に死ぬし、多くの猫もまた確実に死ぬ。猫達は冬の恐ろしさをまだ知らない。T シャツにセーターで夜を過ごすことの無謀さを知らない。コートや毛皮を突き抜けてくる、あの絶望的な寒さを知らない。当たり前だ。まだ生まれて半年くらいじゃないか。
 短くなった昼間、冬の細長い日差しを受けて、猫達は安らかに眠っている。

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