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- 05/10/20 -

[ GreenEyedCats ] キジとクマとヴァイス

 秋になってから僕の部屋には三匹の猫達が住み着くようになった。
 ある小説の主人公は二十四歳で双子の女の子と暮らしていたが、僕は二十三歳で三匹の猫達と暮らしている。これは結構いい勝負なのではないかと思う。

 猫達が生まれて間もない頃から、僕は彼らのことを知っている。
 近所に黒っぽい色をした縞模様の猫がいた。鈴のある首輪をしていたが、いつも塀の上や家の間を歩いていて、あまり人に懐かないような猫だった。それが春の終わりに子供を生んだ。飼い主には猫を室内に入れておく習慣がなかったらしく、小猫達はその家の前にある階段でよく寝ていた。最初は人が近付くと怖がって逃げていたが、少しずつ周りの環境に慣れるようになり、やがて近所でも評判の小猫達となった。
 小猫達は裏道を駆け回り、自転車のペダルを動かして驚き、取っ組み合いをして遊んだ。恐らく飼い主により、首輪がつけられた。ダンゴムシと格闘し、テニスボールを奪い合った。背の低い木に登り、草の露を舐めた。電信柱の上で鳥が鳴いているとその音を真似て奇妙な声を出した。小さな猫達の大きな存在は近隣の誰もが知るところとなった。夜道に猫を見付けると少なからぬ割合の人間が足を止めた。
 その頃の猫達は植え込みを寝床にしていた。小さなマンションの駐輪場の脇にあるひっそりとした植え込みで、三匹も猫が暮らしているために、そこからは少しばかり悪臭がした。全く、困っているんだよ、とマンションの住人が不愉快そうに話した。誰もが猫を好き好んでいるわけではなかった。飼い主の家にはもう終わった選挙のポスターが未だに貼り付けられていた。夏が終わろうとしていた。冷たい雨が多くなった。

 僕は猫達に餌を与え、水を与え、屋根を与えることにした。僕の外出時には一緒に外に出てもらうが、部屋に戻るとすぐに窓から入ってくるので、どうやら嫌われてはいないらしい。
 雄の雉猫にはキジと名付けた。キズと呼ぶこともある。尻尾がカギ尻尾になっていて、よく引っ掛かったりしている。部屋の隅、押入れ、ダンボール箱の中といった狭い場所にいることを好む。
 雄の黒猫にはクマと名付けた。顔付きがどことなく熊に似ているからだ。気質は割と穏やかで大人しく、よくベッドやクッションの上で寝ている。滑らかで真っ黒な毛並みが美しい。食欲旺盛。
 雌の黒猫にはヴァイスと名付けた。Vice ではなく Weiss である。体付きが小さく、とても軽い。大きな目と小さな顔が愛らしいが、少しばかり気性が荒い。黒い毛にうっすらと縞模様が見える。
 猫達は部屋の中で暴れたり眠ったりしている。ここで生まれ育ったと言わんばかりに勝手に遊んで暮らしている。初めは部屋に入るのさえ躊躇していたことを思えば、これもひとつの成果と言えるのかも知れない。

 三匹の猫達は、本当は、四匹の猫達になるはずだった。
 でも、今となっては雄か雌かも分からないもう一匹の猫は、世界のどこかに行ってしまい、二度と戻ってはこなかった。僕は時々、その猫のことを考える。三匹の猫達は、もう一匹いたかも知れない自分のことなどすっかり忘れて、今日も無心にモンプチを食べている。モンプチは人間から見ても美味しそうに思える数少ないキャットフードのひとつだと思う。

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