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- 05/09/19 -

[ ShortEssay ] 耳

 王様の耳はロバの耳という有名な童話があるが、やはり王様は自分の耳がロバの耳であることを相当気にしていることであろう。できることならこんな耳は捨ててしまいたいと考えていることであろう。しかし、どうすればそんなことができるのか。簡単なことである。家来の一人を京に行かせればいい。きっとその家来は知己の医者から長い耳を短くする法を教わってくる。その医者というのは、もともと中国から渡ってきた男で長楽寺の供僧になっていたのだが、まあそんなことはどうでもよろしい。言うまでもなくその法というのは、ただ湯で耳を茹でてその耳を人に踏ませるという、極めて簡単なものである。法を行うことにより、めでたく王様の耳は人並みの大きさになる。しかし王様の気分が良かったのも束の間、今度は長い耳がなくなったために皆から笑われ始め、やがて王様は日毎に機嫌が悪くなるのである。二言目には誰でも意地悪く叱りつけるようになり、しまいには耳の療治をしたあの家来でさえ「王様は法慳貪の罪を受けられるぞ」と陰口をきくほどになる。しかしある朝王様が目覚めてみると、なんと短い耳が長い耳に戻っているではないか。晴々とした心持ちがどこからともなく帰ってくるのを感じる。――こうなれば、もう誰も笑う者はないに違いない。王様は心の中でこう自分に囁いた。長い鼻を明け方の秋風にぶらつかせながら。いや、鼻じゃなくて耳だ。でも王様、長かろうが短かろうが、ロバの耳はロバの耳ですって。

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