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- 05/09/17 -
■ [ ShortEssay ] 勘平という男
昔々あるところに勘平という農民がいた。この男はお調子者で、厳粛さや真面目さを嫌い、他人に対してふざけた態度を取ることが多かった。堅物で有名な男にはこっそり髪に花を挿し、寺の読経の際にはわざと大きないびきをかいた。しかし勘平はその明るさから皆に好かれていたので、特に大きな揉め事になることはなかった。さて勘平には幼馴染のあかねという娘がいて、二人は密かに互いを慕う仲であった。しかし世の事情は二人が添い遂げることを許さず、あかねはどこか遠くに嫁に行ってしまった。勘平はかつての明るさを失い、下を向いたまま畑に出て、下を向いたまま家に戻る生活を送ることになった。やがて風の便りが届き、勘平が知らされたことには、あかねは嫁ぎ先の母に酷く虐められ、世を儚んで井戸に身を投げてしまった、ということであった。次の日、勘平は行方をくらました。誰一人として行き先を知る者はいなかった。ある者は勘平もこの世を儚んで身を投げたのだと言い、ある者は勘平は仙人になるための修行を始めたのだと言った。月日が流れるに連れて、人々は勘平のことを口にしなくなり、少しずつ忘れていった。そんなある日、皆の前に再び勘平が姿を現した。しかしその全身は、汗や垢、血や泥に汚れ、修羅の如き様相であり、人の形をした獣であった。勘平は懐かしい故郷に思わず涙し、皆に声を掛けようとしたが、その姿を見るや否や誰もが逃げ出した。勘平は走り出し、かつての友人の一人の後ろ襟を掴むと、ひざまずいて両手を合わせる友人に向かって、自分の右目の下瞼を右手の人差し指で下げ、大きく舌を出した。その様子を見た友人は叫んだ。「ああ、かんべい!」と。このことから、下瞼を指先で下げることを、あかんべい、転じてあっかんべと言うようになったそうである。めでたしめでたし。良かったね。