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- 06/05/13 -
■ 飛行機はお好きかな
飛行機が飛び始めた。
「うわ、結構傾くんですね」
「そうだね」
「ああ、こりゃあ蜜柑も転がりますね」
「そりゃ転がるだろうね」
「スチュワーデスさんが蜜柑だったら大変ですね」
「通路を歩けないだろうね」
「きっと最後尾あたりで蜜柑のお祈りとかしてるんですよ」
「役に立たないなあ」
「隣には先輩スチュワーデスさんがいて『大丈夫よ、私だって最初は怖かったんだから』みたいなことを言ってるんですけど、先輩は林檎だからいまいち信用できないんです」
「まあ林檎に蜜柑の気持ちが分かるわけないよね」
窓からは主翼が見える。
「なかなか羽ばたきませんねえ」
「そうだね」
「分かった、僕が見ているからだ。自分が動くところを見られたくないんだ。多分こいつ、僕が目を離すまで羽ばたかないつもりですよ」
「そうかもね」
「強情な奴だなあ。落ちたらどうするつもりなんでしょうね」
「さあ。でももしそうなったら君のせいなんじゃないかな」
「ええー。なんかやだなあ」
「分かったら窓の外を見るのを止めなさい」
「はいはい、分かりましたよ」
「重畳重畳。君のお陰で乗客全員の命が救われたわけだ」
「空港で感謝の気持ちにレイをもらってもいいですね」
独り言は続く。