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- 06/05/12 -
■ 針小棒大メネラウス
あのー、もう二ヶ月も前の話なんですけど、研究室で学会の準備をしてたんですよ。それで、自分は理系ですから、エディタで数式を書いてたんですね。流体力学にはレイノルズ応力ってのがあるんです。数式では R なんですけど、レイノルズ応力は二階テンソルなんで、ただのベクトルと区別するためのフォントが欲しかったんですよ。難しい話をしてごめんなさいね。あ、難しい話をしてごめんなさいね。それで、数式で使えるフォントを色々と探していたら、カリグラフィっぽいのを見付けたんですね。それを見た瞬間、閃いたんですよ。
「あ、カッコイイ。これにしよう」
「うわー、このひとダメだよ、ダメダメだよ。発表の資料をカッコイイかどうかで評価しているよ。どんな学会だよ。日本カッコイイ学会、略して NKG かよ。日本中のイケメンが一堂に会するのかよ。デブやブサは御法度かよ。うわあ、差別だ差別。逃げろ」
で、自分、本当にそのフォントで発表しました。バレてないかなあ、カッコイイからこのフォントにしたこと。学会で発表している間も、ヒゲの教授から「君、そのフォント、カッコイイから選んだでしょ」って言われないか、ドキドキしてた。「君ね、そんなことでいいの? そんなフォント、本当にカッコイイと思ってるの?」って言われないか、ビクビクしてた。いや、ごめん、嘘。そりゃ、当たり前だけど、嘘。フォントのことなんか、心底どうでも良かった。ごめんね、本当はどうでも良かったの。ヒゲの教授なんかいなかったの。ごめんね、見栄張って。針小棒大でごめんなさい。なんというか、自分の存在が。なんかこう、存在が、針小棒大でごめんね。
まあ、フォントをカッコイイかどうかで選んでいるだけならまだいいけど、この調子で何も考えずに突っ走っていると、そのうち取り返しのつかないことになってしまいそうな気もする。「カッコイイからこのパラメータ使おうっと」とか「カッコイイからこの微分演算子使おうっと」とか言い出すようになるのは、多分、時間の問題だ。
それはそうとして、初等数学において最もカッコイイ定理は、間違いなくメネラウスの定理だろう。まず名前がカッコイイ。メネラウス。転校生の名前としてはパーフェクトだ。「初めまして。芦屋から来ました。名前は村上メネラウス。趣味は流鏑馬です」もう放課後には彼女がいるね。あとメネラウスは、定理そのものもカッコイイ。三角形と直線が交わっていても交わっていなくても、表記の上では同じ公式になるところとかが、カッコイイと思う。俺は、三角形と直線が交わっていないと使えなくなるような、そんな温室育ちのエリートお坊ちゃん定理じゃないんだぜ、みたいな。まあ、そういうところがちょっと嫌いなんだけどね、メネラウス。カッコイイところが鼻につく、そういう意味では、メネラウスはフェラーリに匹敵するかも知れない。メネラウス。父親は NKG 会長だ。