counter
-7MainanaDiaryVaseAboutMailAntenna

<< Prev | Main | Next >>

- 05/12/13 -

[ GreenEyedCats ] マフラーを買った

 生まれて初めてマフラーを買った。

 僕はずっとマフラーが大の苦手で、ここ十年くらい身につけたことがなかった。いや、少しくらいならつけていたのかも知れないけれど、自分から進んでつけることは多分一度もなかったと思う。とにかく子供の頃から、マフラーが嫌で嫌で仕方なかったのだ。マフラーをつけなさい、という家族の言葉には悪意すら感じた。自意識が強すぎたのだろう。
 昔からマフラーをつけると違和感がした。背筋がぞぞっと震えて、余計に寒気がした。蛇のような生き物が首に巻きついているような感覚があった。いや、流石にそれは大袈裟だけど、マフラーをつけることによって自分の一部が侵されるような感覚は、物心つく前から確かにあった。息苦しいとか締め付けられるとか、そういう感覚とも少し違うが、正直よく分からない。うまく説明できそうにない。あれは多分、誰もが子供の頃に持っている、名無しの怪物だったのだろう。なんだかカッコいいからそういうことにしておく。
 マフラーをつけなかったので下校中に凍死しました、ということは滅多にないため、中学校でも高校でも大学でも、僕はずっとマフラーを避けてきた。まあ誰にだって少しくらい苦手なものはあるだろう。ジェリービーンズとか、グレーハウンドとか、日本人形とか。そういうことだ。

 上野駅の改札の中にユニクロがある。茶色と緑色の間のような色合いのマフラーを衝動買いした。1500円だった。
 自分の首に巻きついていたはずの蛇はいつの間にか、ただの古臭いロープになっていたのでゴミ箱に投げ捨てた。幽霊の正体見たり枯れ尾花。名無しの怪物も年には勝てなかったのであろう。十数年振りにつけるマフラーはとても暖かかった。なんとなく、大人になるということは、マフラーをつけられるようになることかも知れないな、と思った。そして、つい先日、大人になるということは、猫を飼えるようになることかも知れないな、と思ったことを思い出した。
 部屋に戻ってマフラーを外してベッドの上に置いた。あとで見ると当たり前のように猫がその上で眠っていた。悔しくなったので猫を首に巻きつけたら引っ掻かれて逃げられた。

<< Prev | Main | Next >>

MainanaDiaryVaseAboutMailAntenna-7